公開日2024年10月17日
赤ちゃんのあたまのゆがみは早期相談が鍵! 葵鐘会が考える赤ちゃんのあたまのかたち外来
まず、先生のご経歴についてお聞かせください。
昭和62年、つまり1987年に神戸大学の医学部を卒業しました。当時はまだ今のような臨床研修制度がなかったので卒業後1年は大学に残り、その後、兵庫県立こども病院で新生児医療の研修を行いました。それから広島県の呉共済病院でも2年間研修を積みました。
小児科医になろうと思ったのはなぜですか?
学生時代に、なんとなく内科系に進むことを考えていたんですが、周囲の人から「小児科が向いている」と言われることがだんだん多くなったんです。また、実習でいろんな科を回ったとき、小児科、特に新生児医療には未来を感じました。
新生児医療では生まれたばかりの赤ちゃんが危険な状態に陥ることもあって、その命を救うことができれば、その後の長い一生を元気に過ごすことができる。この魅力に惹かれて、小児科医の道に進みました。
先生が葵鐘会にいらっしゃったのはいつのことですか?
葵鐘会に来たのは2013年です。私は神戸大学出身でそれまでずっと関西圏にいたのですが、兵庫県の神鋼加古川病院の小児科に勤めていたころ、臨床に携わりながら医療ITシステムを作る仕事を始めました。
クリニカルパスという当時流行り出した仕組みも自らIT化していました。それが名古屋大学のある方の目に止まり、名古屋大学のメディカルITセンター長として働くことになったんです。名古屋大学では小児科の診療を本格的には行っていませんでしたが、あるクリニックで非常勤として新生児の診療を行っていました。そのクリニックが葵鐘会の一部になったことで、電子カルテの整備や統合に携わり、最終的には葵鐘会に所属することになりました。
葵鐘会の歴史についても教えていただけますか?
葵鐘会は山下理事長が立ち上げた組織で、最初は稲沢市のセブンベルクリニックから始まりました。
元々は産婦人科を中心としたグループでしたが、産婦人科で産まれたお子さんを診る小児科も必要ですから、当初からセブンベルクリニックの柳瀬先生という小児科部長が小児科のトップとして診療を行っていました。そのうち産婦人科のみだった施設の中で小児科を併設しているところも増え、今では小児科グループができるほどまでになりました。グループであることの強みや、私のこれまでの経験を活かして、夜尿症外来や頭の形外来などの専門外来を導入し、患者さんのニーズに応える医療を目指しています。
葵鐘会の産婦人科や小児科の特徴についても教えてください
現在多くの産婦人科では、一人の医師が24時間365日働くという旧来のモデルが崩れつつあります。このモデルには医師にとってリスクも多く、産婦人科医は減少しつつあります。さらに減少が続けば、お産をする病院が見つからない、いわゆるお産難民も生まれてしまいます。そんな中、この葵鐘会ではお産に困っている地域にクリニックを作ったり、元々ある産婦人科に医師を派遣したりといった形で地域に貢献しています。
現在葵鐘会には150人ほどの医師が在籍しており、複数の医師が協力して診療に当たることで適度な休息を取れる環境を整えています。小児科では、原則として産婦人科で生まれた赤ちゃんのケアに重点を置きながら、一般外来も行っています。これまでの一般的な小児科のように風邪などの急性期疾患のみでなく、専門性を活かした外来を提供しています。例えば、あたまのかたち外来や夜尿症外来に力を入れています。
どんなクリニックであることを目指しておられますか?
葵鐘会で力を入れている夜尿症と頭の形については、どちらも様子を見ていれば自然に治ると考えている小児科医が多いです。確かに夜尿症は治療しなかった場合でも、10人に1人は1年ほどで治ると言われていますが、治療すれば2人に1人くらいは1年で治るというデータがあります。
自然に治るなら治療は必要ないという考え方もありますが、その理論で言えば風邪も自然に治ります。そのうち治るよと言われたとしても、今患者さんは困っているんですね。
つまり、診療対象の基準は自然と治るかどうかではなく、患者さんが困っているかどうかだと思うんです。自分たちでは解決できないことを解決するために頼ってもらうのが医療だという考えの下、他の病院ではなかなか取り合ってもらえないような悩みも、葵鐘会ではちゃんと診察できる体制をとることを目指しています。
先生自身が大切にされている診療の姿勢についても教えていただけますか?
小児科医は、ただ子供が好きなだけでは務まりません。まず、親御さんときちんとコミュニケーションをとれることが重要です。そのうえで、子供の目線でも話をすることが大切で、診療の際は親御さんとお子さんの両方を同じくらい見ながら話をすることを心がけています。
葵鐘会の今後の展望についてもお聞かせください。
葵鐘会全体としては、地域のニーズに応じた産婦人科医療を提供し続けることです。小児科としては、すべての施設に小児科医が常勤できるようにしていければと考えています。また、専門性をさらに高め、疾患の種類にもよりますがオンライン診療を取り入れることも視野に入れ、患者さんにとって便利な医療を提供していきたいと考えています。
葵鐘会グループインタビュー
葵鐘会グループの小児科にて頭の形に取り組む吉田 茂先生、早川 昌弘先生、鶴岡 美幸先生、加藤 義弘先生に頭の形についていろいろと教えていただきました。
まず初めに、どうして「あたまのかたち外来」を始めようと思われたのか、その経緯についてお伺いしたいと思います。
吉田先生(吉田):
きっかけは、名古屋にある企業の方が、ヘルメット治療を手掛けているBerryさんを紹介してくれたんです。ヘルメット治療があることは知っていましたが、当時は特に興味はありませんでした。しかし、日大の小児科医の先生が東京で熱心に取り組んでいると聞き、彼が神戸大学の後輩でもあったことから見学に行くことにしました。そこで、日本でのヘルメット治療が急速に広がっているものの、脳神経外科や形成外科が主導している現状に疑問を持ったんです。赤ちゃんのことを一番よく知っているのは小児科医のはずなのに、小児科医は頭の形に関心がなく、「様子を見ていれば治る」と言い続けてきた。
それは問題だと感じ、小児科医ももっと関心を持つべきだと思い取り組みを始めることにしました。
早川先生(早川):
私も、前職の名古屋大学にいたころにヘルメット治療の話を何度か聞いていて、興味を持っていました。その後、葵鐘会に移るタイミングで吉田先生からもお話があり、私も「やってみようか」と思うようになりました。当時既にヘルメット治療を行っていたクリニックの先生とも話をして、想像していたよりもヘルメットを希望する方がいることが分かって、吉田先生と一緒にやっていこうと決心しました。
吉田:
早川先生は名古屋大学のNICU(新生児集中治療室)のトップでしたから、そのように赤ちゃんのことに一番詳しい人たちが頭の形に取り組んでいくことが非常に重要だと思いますね。
鶴岡先生(鶴岡):
私は、吉田先生がこういう取り組みを始めるということで、頭の形に関する資料をメーリングリストで共有してくださった時に興味を持ちました。ちょうどそのころ、小児科学会総会のランチョンセミナーでヘルメット治療に関する講義を聞いて、それまでは頭の形が気になるという親御さんに対して、多くの小児科医の先生と同様に「大丈夫、そのうち目立たなくなりますよ」と言っていましたが、実際にアメリカではヘルメット治療が行われていること、日本でもできるんだということを知って興味を持ち、一緒に勉強させていただきながら始めたという感じです。
加藤先生(加藤):
私は岐阜の高山のアルプスベルクリニックに勤めていますが、最初は、撮影などは可児にあるローズベルクリニックで行ってもらえればと思い、当院では窓口だけ作るつもりで外来を開設しました。でも、思った以上に希望者が多かったこと、さらに最初の患者さんには雪の日に可児まで行って頂くことになってしまったのですが、その大変さがあったにも関わらず、治療ができることをものすごく喜んでいたということがありました。そういうことが何度か続いたら、やっぱりこれはなんとか高山でやらなきゃいけないなと思い、高山でも治療を始めました。
吉田:
加藤先生はとても高山への愛が強く、夜尿症外来も高山でやってもらっています。
加藤:
夜尿症については、吉田先生のシステムがすごくしっかりしているので、それに従っていけばできるという自信がありました。その意味では、あたまのかたち外来も同様で取り組みやすかったですね。
実際に外来を始めてみて、頭の形についてのご相談は多いですか?
吉田:
多いですね。外来を始めてから、1か月健診で必ず頭の形について問診するようにしているのですが、データベースを使って、「頭の形が気になりますか?」とか「向き癖はありますか?」という質問に、4人に1人は「はい」と答えています。月齢1か月の段階ですでに歪んでいる赤ちゃんもいて、そういう子たちはすぐにあたまのかたち外来に来てもらうようにしています。タミータイムの指導をすると、ヘルメット治療をしなくても治っていくケースが多いですね。
加藤:
4か月健診の時に、以前はお母さんが主に気にされることはアトピーなどの皮膚のトラブルについてだったんですが、最近は頭の形のご相談がすごく増えました。今、アルプスベルに来ている患者さんの多くは、4か月健診を受けた医療機関からの紹介です。紹介先ができたことで、健診の際に頭の形について相談があった方の対応ができるようになったということだと思います。
早川:
私も最初は「患者さん来るかな」と思っていましたが、意外と多くの方が来られています。今は情報が多く飛び交っていて、お母さん方もいろいろなところから情報を得て来られているようです。日本小児科学会の新生児委員会でも時折メンバーに頭の形についてのことは伝えています。米国では1か月健診で頭の形をチェックすることについてもマニュアルに載っていますが、日本ではまだその認識が広まっておらず、頭の形や耳の位置のずれを見るなど、1か月健診のやり方を変えることが今後の課題かもしれませんね。
最近は、以前に比べると月齢が早い段階で来られる患者さんが増えてきていて、いい傾向と感じています。
一同:
確かに!
鶴岡:これまで予約が取れないクリニックも多かったですが、受け皿が増えてきたことで、待たずに受診ができる場所を探せるようになっているのかもしれません。
院内で生まれたお子さんに対して、頭の歪みの予防について指導されていると伺ったのですが、どのようなことをされていますか?
吉田:
クリニックによって差がありますが、2週間健診のとき、あるいは入院中に指導しているところもあります。1か月健診で必ずタミータイムの資料を渡して説明しているところもありますしね。生まれてからだとお母さん方は他に気をつけることがいっぱいあって頭のことまで気が回らないと思うので、妊婦さんの間にそういうレクチャーをやる機会を作れたらいいなと考えています。
鶴岡:
1か月健診の際、うつ伏せで寝かせるのは禁止と強く言われていることが多く、うつ伏せにすることがだめだと思っているお母さんが多いです。スタッフが赤ちゃんの洋服を整える際などにうつ伏せにしてみると、結構赤ちゃんも気持ちよさそうにしていて、お母さんもああいうふうにしたらいいんですね、とやり方がわかり安心していただけます。
外来を始めてみて、どのような感想をお持ちですか?
吉田:
医療者としての満足度も高いですね。患者さんが喜んでくれるのを見ると、嬉しいですし、やってよかったと思います。夜尿症外来と同じように「卒業」という概念があって、治療が終わる際に卒業証書を渡すのですが、患者さんが卒業する時すごく喜んでくれるので、自分も嬉しくなります。
早川:
治療の効果が8週目くらいから出始めるようなイメージがあるんですが、その過程を見るのも興味深いですね。発達の遅れと斜頭症に関連があるとも言われていますが、実際に発達が気になる子を見つけて早期にフォローができるチャンスだと思っています。
インタビュアー:
発達というのは、運動機能に関してでしょうか?
早川:
そうですね。運動面での発達の遅れです。
加藤:
患者さんに対して感じることは吉田先生のおっしゃる通りです。私は医療関係者の反応も興味深いなと思いますね。患者さんが良くなったことを医療関係者に伝えると、その反応が変わってきます。
最初は懐疑的だった医師や看護師も、実際に効果を目の当たりにすると「すごいね」と言ってくれるようになりました。ただ、診療科によっては興味を示さない先生も多く、この治療法が浸透するには時間がかかるかもしれないですね。
鶴岡:
私は1年ちょっと診察をしてきましたが、患者さんの改善を見ると本当に嬉しいです。初診時と卒業後のお母さんの表情がまるで別人のように変わるのも、この仕事のやりがいを感じる瞬間ですね。
吉田:
頭の形に悩み、落ち込んで暗い表情をされているお母さんも、卒業する時には別人のように晴れやかな顔になっています。中には、ご両親の間で意見が対立することもあり、そこは難しいところだと感じますね。
治療を受けられた方のご意見はいかがですか?
吉田:
これまでに160名ほど卒業されましたが、卒業時のアンケートではほとんどの方が「大いに満足」や「満足」と答えています。効果があまり出なかったケースもありますが、それは少数ですね。
早川:
効果が出なかった場合でも、その理由を説明すると納得してもらえることが多いですね。例えば、装着時間が短かったり、ヘルメットの使い方が不適切だったりする場合などです。
加藤:
私が見た限りでも、ほとんどの方が満足しておられます。
ヘルメット治療をする上で、大変なことは何でしょうか?
吉田:
経済的な負担が一番大きいと思いますが、治療の最初の頃はヘルメットがずれやすいという相談が多いです。でも、最初は結構ずれることがあるので問題ないとお伝えしています。
早川:
基本的に、医学的なトラブルは皮膚の問題くらいですが、すぐに対処することが重要ですね。
吉田:
最近は、発赤が出るようなトラブルも減ってきたように感じます。
鶴岡:
新しいシリーズのヘルメットになって、以前より皮膚トラブルが減ったように思います。
インタビュアー:
最初の数日間が重要で、そこを乗り切れば大丈夫という感じでしょうか?
鶴岡:
そうですね。初めて装着した時に問題がなければ、その後も順調に進むことが多いです。
インタビュアー:
トラブルが発生した場合、患者さんへの対処はどのように行われていますか?
鶴岡:
連携アプリで患者さんに写真をアップロードしていただいています。クリニックが開いている時間帯には電話連絡も受け付けており、担当医が対応します。私たちは細かいことでも直接電話で対応することが多いですね。外したら症状が改善することが多いので、すぐに来院する必要はありませんが、状況に応じて受診もしていただきます。
早川:
赤みが出た場合はすぐに休憩を取って、塗り薬を塗るように指導しています。それでも改善しない場合は、再度相談していただいています。
あたまのかたち外来の初診の流れを教えてください。
インタビュアー:
頭の形外来の初診の流れについてお伺いしたいのですが、クリニックによって異なるでしょうか?
吉田:
基本的にはどのクリニックでも同じ流れになっていますね。初診の日には診察を行い、ヘルメット治療を希望される場合はその日に3Dスキャンをします。
早川:
僕の場合は、初診ではまず説明だけを行います。その後、レントゲンを撮って、頭蓋骨の病気がないことを確認してからスキャンに進むという流れです。基本的には先にレントゲンを撮ってから次のステップに進むようにしています。ただし、レントゲンが頻繁に撮れない施設もあり、その場合はスキャンを先に行ってヘルメットを発注し、レントゲンを後日撮るという2つのパターンがあります。
初診の時には、資料を使って「なぜこうなったのか」や「そのままにしておくとどうなるのか」、「どのような問題が生じるか」などを説明します。そして、治療が必要な場合は経過観察を提案し、ヘルメット治療をするかどうかはご両親でしっかり話し合って決めてもらいます。無理に治療を進めることはなく、一度持ち帰って考えていただく時間を設けます。
吉田:
原則として、ヘルメット治療を強く希望される方には、ご両親で来ていただくようにお願いしています。ご両親が納得した上で治療を始めていただくようにしています。
スキャンした後の3Dデータを患者さんにお見せした際、どんなリアクションがありますか?
鶴岡:
皆さん「おーっ!」という感じですね。ノギスで計測して重症度を説明してからスキャンを実施しますが、それでも驚かれることが多いです。
吉田:
特に頭の形を上から見たスキャン画像を見せると、「こんな感じなんですね」と驚かれます。髪の毛がない状態で見ると、歪みがよく分かりますからね。
鶴岡:
お顔もスキャンで見られるので、泣いている表情もそのまま映ります。それがまた可愛いんですよね。
予約の取り方について教えていただけますか?
吉田:
基本的には電話での予約ですね。各クリニックに直接お電話いただいて予約を取ります。もし予約が先になるようなら、系列の他のクリニックを紹介することもあります。
鶴岡:
相談の電話が来た時には、月齢によって急いだ方が良い場合もありますので、なるべく早く予約が取れるように、系列の他のクリニックを受診してもらうこともあります。
最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。
吉田:
迷ったら、すぐに小児科医に相談してください。ヘルメットを作るかどうかにかかわらず、早めの対処が重要です。頭の形に関心を持っている小児科医を見つけて、ぜひ相談してみてください。
早川:
そうですね。やはり「早めの相談」が鍵です。
鶴岡・加藤:
同感です。迷ったら、まずは相談してください。
吉田:
それと、我々小児科医としては、過去の反省も踏まえてもっと赤ちゃんの頭の形に関心を持つことが重要ですね。日本全国の小児科医がもっとこの問題に関心を持ち、適切な対応ができるようになればと思っています。
ヘルメット治療について
治療の流れ
診察を行い、レントゲンを撮って、頭蓋骨の病気がないことを確認します。ヘルメット治療を希望される場合は3Dスキャンをします。
費用
30万円(税込)
診察日時
各クリニックのホームページよりご確認ください。
予約
完全予約制です。お電話で診療予約をお取りいただくことが可能です。
相談窓口
各クリニックのホームページよりご確認ください。
アクセス
電車・バスでお越しの方: 各クリニックのホームページよりご確認ください。
お車でお越しの方: 各クリニックのホームページよりご確認ください。