公開日2024年9月3日
頭位性斜頭症の治療とは?鹿児島市立病院の大吉先生が解説
先生のこれまでのご経歴についてお聞かせいただけますでしょうか?
鹿児島大学を卒業後、鹿児島大学の脳神経外科に入局しました。平成4年入局なのでそれから30年以上経ちますね。その頃はこういう頭位性斜頭症(向き癖などによる頭の歪み)はあまり認識されておらず、頭蓋骨の病気による頭の変形を治療するのが主でした。頭の形外来というものも無く、頭位性斜頭を見るようになったのは2020年からだったと思います。頭の形外来は鹿児島大学で始め、その後鹿児島市立病院に移った際に引き継ぐ形で続けています。
先生が医師を目指したきっかけはなんですか?
高校の頃は理数系だったので、大学受験の際に理系分野を選ぼうとは思っていました。医療に携わろうと思ったのは、高校時代のボランティア活動がきっかけですね。実際の難病の患者さんなどと接する機会があり、解決できていない病気があることを知って興味を持ちました。脳神経外科に進もうと思ったのは大学時代です。大脳生理学や記憶、感情などの分野が結構好きだったんですよね。興味を持った分野に進もうと思っていたので、脳神経外科に進みました。
医師になった当時のことを教えていただけますか?
あの頃は朝から晩まで仕事しているのは当たり前の時代だったので、それはもう大変でした(笑)。そういう時代があったからこそ今があるんでしょうね。頭の変形がある子供たちは僕が入局した当時からいまして、当時、小児神経外科専門の先輩たちに少しずつ治療の方法を教えてもらいました。
先生が診察時に心がけていることはなんですか?
基本的に、患者さんの主訴が一番重要だと思うんですよね。患者さんがいつも何に困っているのか、それはいつ頃からなのか。その困っていることに関する病歴はあるのかなど。問診がすべてだと思っています。あとは画像診断と照らし合わせ、患者さんの主訴と画像診断がぴったり合うかどうかをきちんと確認する。これが全般的に心がけていることです。
この病院の特徴を教えていただけますか?
鹿児島市立病院は総合的な診療機能に加えて、総合周産期母子医療センター、脳卒中センター、成育医療センター、救命救急センターなどを設置しており、この地域の中核医療機関としてたくさんの患者さんを受け入れているという特徴があります。その他、小児医療の観点からお話しさせていただくと、小児救急医療拠点病院として県から指定を受けており、小児救急医療の様々な疾患に対応しています。小児科は市内や遠方の病院からも患者さんの紹介があり、救急医療から慢性期医療まで一貫した診療体制を持っています。
頭の形外来を始めたきっかけは?
頭の形外来を始めた2020年は、東京女子医大で始まったヘルメット治療が全国に広まろうとしている時期でした。頭蓋骨の手術後にヘルメット治療を行う、頭蓋骨の病気の子供たちを対象とした治療がとてもうまくいっている、と学会で発表されるようになったんです。頭蓋骨の病気の子供たちはもちろん、向き癖などによる頭の歪みがある子供たちも対象としたヘルメット治療を導入しようということで、鹿児島大学病院で頭の形外来を始めました。
鹿児島県内で頭の形外来のある病院は少ないと聞きました。
小児脳神経外科は非常にニッチな分野というか、やっている人が少なく、特にこの頭蓋変形に関しては鹿児島県では多分僕を含めて二名ぐらいしかいない状況です。鹿児島県内では鹿児島大学病院、いちき串木野市医師会立脳神経外科センター、そしてこの鹿児島市立病院の三拠点のみで治療を行っている状況ですね。
頭の形外来の初診の流れを教えてください。
初診は基本保険診療です。まず頭の計測と触診、問診をします。そして、CTで画像検査をします。この治療においては、頭蓋骨の病気を見逃すのが一番よくないですから。頭の形外来をやっているのは利益のためではなく、病気を見逃さないようにすることが一番の狙いです。 頭蓋骨の病気も乳児期の早期に見つけられればヘルメット治療できれいになることが分かってきたので、病気の子を乳児期の早期に診断してあげることが目標です。だからCT画像撮影をするんですが、放射線の影響が気になるのでうちでは赤ちゃんのCT撮影は大人の半分以下の被ばく線量になるように撮影してあります。
ベビーバンドの場合、頭蓋骨の病気の疑いがなければカメラ撮影だけでヘルメットが作成できますので、それはいい点ですね。頭の歪みの度合いの測定については、CVAIという頭の対角線上の距離を計測し数値を出す方法がありますが、最初のカメラ撮影でできる3DモデルやCTを見ていただくと、見た目でも変形の度合いがよくわかります。患者さんに説明する際に重要としているのは、耳の位置が左右どれくらいずれているのかというところで、ずれている症例はヘルメット治療をやった方がいいですよと積極的に伝えています。患者さんから必ずと言ってよいほど「ヘルメット治療をやった方がいいですか?」と聞かれるんですが、やってどんな恩恵が得られるかといえば、頭が良くなるわけでも、頭痛が良くなるわけでもありません。ただ、歯並びや噛み合わせに関しては多くの論文が出ているので、これは今治せるのであればいいかもしれませんねとお伝えしています。
頭の形の変化はどのようにチェックしているのですか?
ベビーバンドを使用している今は、写真から3Dモデルを作成することで頭の形の経過を見られるのですが、これまではヘルメット治療前と治療後に経過を確認するためにCT画像を撮っていました。卒業するときに治療前と治療後の画像を並べると、患者さんが「明らかに変わったね」と喜んでくださいましたね。記念にiPhoneで写真を撮る方が多いのですが、そのときに「先生も一緒に写っていただけますか」と言われ、一緒に写ることもありました。CTには放射線の影響もありますから、なるべく回避できればと思っています。特に頭位性斜頭の方は病気ではないので、CTを撮らなくても写真撮影で頭の形が3Dモデルになるというのはすごく良いですね。治療の経過を判断するのは、3Dモデルを使うという形が一番理想的だと思いますね。
ヘルメット治療の効果はいかがですか?
実際に治療した患者さんから感謝されることが多く、やった方がいい場合も多いと感じますね。治療した方に関しては、比較的良くなっている印象です。頭位性斜頭は将来的に歯並びや噛み合わせが悪くなったり、耳の変形でメガネがかけづらくなったりすることもあるので、ヘルメット治療はそれを改善する唯一の良い方法だと思います。特に頭位性斜頭は耳の位置がずれている場合が多いのですが、治療後に改善している例が多いです。
ヘルメット治療をしていく上で大変なことはなんですか?
治療開始してすぐは頭とヘルメットの間に少しすきまがあるので、「朝起きたら脱げていました」とか「回転していました」という話を聞くこともあります。「脱げたりずれたりして、本当に良くなるのか?」と話す方もいます。大きな金額がかかるものですし、不安に思われるのは当たり前ですよね。1~2ヶ月すると頭が大きくなってフィット感が出てきて動かなくなりますので、安心してください。あとは、鹿児島の夏は特に暑いので、汗びっしょりになってしまって大変かもしれませんね。月齢が8~9ヶ月ぐらいになってくると嫌がって取っちゃうこともあるので、治療をスタートするのは月齢4~5ヶ月ぐらいがベストです。その時期に始めると頭の形もきれいになりやすいです。
ヘルメット治療をしても頭の形が良くならない場合もありますか?
去年の8月の段階で170例ぐらい実施していますが、その中で10例ぐらい被れなかった子がいました。病気やコロナで被れなかったり、嫌がったりするという稀なケースが多いですね。長時間被っている子は、治療に満足されるケースがほとんどです。もう一点は、開始月齢が遅い場合ですね。ご両親の希望があり9か月から始めた方が2例くらいありましたが、若干歪みが残りました。
ヘルメットが2個必要になる場合はありましたか?
頭位性斜頭に関してはないです。頭蓋骨の病気の子の場合は手術で骨を切り取りますので、骨が十分にできてさらに歪みを治すための期間にヘルメットを被りますので、2個必要なことがあります。
最後に読者のみなさんへのメッセージをお願いします。
アメリカなどの海外でも言われていることですが、子どもの癖は胎児期から出現しているとされ、首の周りの筋肉の緊張や発達は左右差があると言われているので、向き癖を直すのはなかなか難しいことです。ただ、タミータイムや、首のストレッチなどの予防法をしっかり実践すると頭位性斜頭は軽くなると多くの文献でも言われておりますので、まずは予防してあげてください。その上でどうしてもそれが良くならなければ、耳の位置の変異がある場合は噛み合わせが問題になることもあるので、生後6ヶ月以内であればヘルメット治療はおすすめですよと言いたいです。
ヘルメット治療について
治療の流れ
初診では、頭の形の計測と触診、問診をします。CTでの画像検査も⾏います。 計測結果をもとに、ご希望の場合はヘルメット治療に進みます。
費用
当院スタッフまでお問い合わせください。
診察日時
第1・3火曜⽇となります。
予約
完全予約制となっております紹介状をお持ちの上、お電話にてご予約をお願いします。
相談窓口
099-230-7000
アクセス
電車・バスでお越しの方: ■電車をご利用の方 JR「鹿児島中央駅」下車 ■市電をご利用の方 「市立病院前」下車 ■バスをご利用の方 「市立病院前」下車
お車でお越しの方: 収容台数 650台