公開日 2023/10/20
【医師解説】乳児湿疹ができる原因は?アトピー性皮膚炎との違いや対策について
目次
さの赤ちゃんこどもクリニック 院長
佐野 博之 先生
Q.乳児湿疹とは何ですか?
A.乳児湿疹とは、赤ちゃんのお肌にできる湿疹の総称です。乳児湿疹とアトピーの違いが気になる人もいると思いますが、アトピー性皮膚炎とはまだ診断できない状態の湿疹や、頭皮に硬いかさぶたのようなものができてしまう脂漏性湿疹、あせもなども乳児湿疹に含まれます。新生児期~生後3か月は皮脂分泌が盛んで、その後、急激に分泌量が下がり乾燥肌となる為、肌トラブルを起こしやすくなります。
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乳児湿疹と呼ばれる主な肌トラブルには次のようなものがあります。
新生児ざ瘡
生まれたばかりの赤ちゃんによく見られる、ニキビに似た症状です。この症状は赤ちゃんの5人に1人程度にあらわれます。通常、生後2週間ほどから発生し、数か月内に自然に解消されることが一般的です。積極的な治療が必要な疾患ではありません。新生児ざ瘡は、母親から受け継いだホルモンの影響により、赤ちゃんの皮脂分泌が増加することが原因の一つとされています。また、赤ちゃんの毛穴や汗腺が未発達で、皮脂が詰まりやすいために生じることがあります。さらに、詰まった部分に皮膚に常在する細菌が感染することも、この症状の一因と考えられています。
乳児脂漏性皮膚炎(乳児脂漏性湿疹)
乳児脂漏性湿疹、または乳児脂漏性皮膚炎は、赤ちゃんの前頭部から頭頂にかけて黄色っぽいかさぶたのような湿疹が現れる皮膚の状態です。この炎症の原因の一つとして、皮膚に常在する細菌であるマラセチアに感染することが考えられています。他の皮膚疾患と異なり、乳児脂漏性湿疹は通常、かゆみや痛みを伴いません。鱗屑をやさしく取り除いたり、必要時はステロイドローションを使用したりしながら治療します。
皮脂欠乏性皮膚炎(皮脂欠乏性湿疹)
いわゆる乾燥肌のことを、皮脂欠乏症と呼びます。この状態が悪化し、湿疹が現れると、それを皮脂欠乏性湿疹と言います。赤ちゃんは生後約3ヶ月まで、母親から受け継いだホルモンの影響で、皮脂の分泌が比較的多い状態にあります。しかし、その後、逆に皮脂の分泌が次第に減少する傾向があります。この状態は思春期に至るまで続き、その後、再び皮脂が豊富に分泌されるようになります。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う皮膚の湿疹が周期的に現れる、慢性的な皮膚疾患です。患者の多くは、自身または家族にアレルギー疾患があったり、アレルギー反応に関与するIgE抗体を産生しやかったりというアトピー素因がある場合が多いです。アトピー性皮膚炎は、乳幼児期から始まり、思春期を過ぎると症状が改善することが多いですが、一部の成人でも症状が持続することがあります。
アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能が低下し、アレルギー反応だけでなく、さまざまな要因が症状の悪化に寄与するため、乾燥肌や敏感肌が特徴的です。皮膚の他に気管支喘息などのアレルギー性疾患と合併しやすく、特に気管支喘息を持つ子供の半数以上にアトピー性皮膚炎が見られることもあります。
そのため、アトピー性皮膚炎の適切な治療と予防は、他のアレルギー症状の悪化を防ぐ重要な手段とされています。
皮膚カンジダ症
カンジダ感染症は、皮膚にカンジダという種類のカビが感染して引き起こされる疾患です。一般に、股部、陰部、オムツ部、指の間、口の周りなど、湿った部位で発生します。主な症状は、境界のぼんやりとした紅斑で、その周囲に小さな水ぶくれや膿が多数見られ、通常、軽度のかゆみを伴います。診断は経過や特徴から可能ですが、湿疹との見分けがつかない場合もあり、顕微鏡でカンジダの存在を確認する検査が有効な場合があります。カンジダ感染症の発症は、高温多湿な環境や、多汗、不適切な衛生状態などが原因になります。
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接触皮膚炎
身の回りの物質に接触することによって引き起こされる皮膚炎のことです。いわゆる「かぶれ」のことです。アレルギー反応に基づいて発生する場合と、通常は問題ない物質に過度な刺激を受けた結果生じる非アレルギー性(刺激性)の場合があります。原因となる物質は多岐にわたり、特に赤ちゃんにおいてはおむつかぶれなどが一般的です。
また、よだれがかぶれの原因となることもあります。症状が軽度の場合、自然治癒することがありますが、かゆみを我慢できずにかきむしったりすると、患部に色素沈着などの影響を及ぼし、症状が長引くこともあります。
汗疹(あせも)
赤ちゃんは新陳代謝が活発で、体温が通常よりも高いため、汗をかきやすい体質です。実際、汗腺の数は生まれたときから大人と同じですが、赤ちゃんの汗腺は未熟で、適切に汗をかけないことがあります。このため、汗腺が詰まり、汗が皮膚の中で滞留し、あせも(汗疹)が発生することがあります。あせもが発症すると、皮膚が赤く腫れ、小さな水ぶくれのような症状が現れ、時にはじんましんのような痛みやかゆみが感じられます。このような場合、通常、外用薬を使用して対処します。
Q.乳児湿疹の原因は何ですか?
A.「乳児湿疹」と一言で言っても、乾燥、皮脂、カビ、アレルギーの原因物質など、さまざまな原因がありますが、主な原因は概ね次のようなものです。
女性ホルモンによる皮脂の過剰分泌
母親の女性ホルモンが胎盤を通じて赤ちゃんに影響を及ぼすため、赤ちゃんの皮脂分泌が増加し、毛穴が詰まり、ニキビのような湿疹が生じることがあります。この状態は通常、新生児期から生後3か月の間に発生しやすく、乳児脂漏性湿疹として知られています。過剰に分泌された皮脂により、皮膚の常在菌であるマラセチア菌が増加することも原因の一つとされています。しかし、この症状は一過性であり、適切なケアを行えば通常は自然に収まってきます。
乾燥などによる皮膚バリアの低下
赤ちゃんの皮膚は未熟で、潤いを保ち、外部刺激から守るバリア機能が発達していないため、唾液や食べこぼし、衣類の摩擦など、軽微な刺激でも湿疹を引き起こしやすい状態にあります。
汗による炎症
赤ちゃんは発汗調節が未熟なため、外部の気温変化などに敏感に反応し、頻繁に汗をかきます。汗をそのままにせず、適切なケアを怠ると、汗腺が詰まり、炎症が生じることがあります。この炎症が発生すると、かゆみを伴う小さな赤い発疹が多数現れ、進行すると黄色い膿が生じることがあります。
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Q.どのような治療を行いますか?
A.乳児湿疹の主な原因は、汗と乾燥のため、日常的なスキンケア(清潔と保湿)でよい状態を保つことを目指します。それでも乾燥が強かったり湿疹を認める場合は、軟膏塗布(ステロイド軟膏等)で治療します。
Q.予防するために何ができるか教えてください。
A.赤ちゃんのお肌ケアをしっかりすることが基本になります。入浴時に低刺激の石鹸で優しく汚れや皮脂を落とし、清潔に保つことです。入浴時には、ごしごし洗うのではなく、石鹸をよく泡立て、指先で優しく撫でるように洗うのが良いです。そして、できるだけ早くぬるま湯で洗い流しましょう。保湿は入浴後だけでなく、日常的に行うことが大切です。赤ちゃんに適した、刺激の少ない保湿剤を使って、お肌の水分を保つことが重要です。
また、赤ちゃんが汗をかきすぎないように、室温や着せる服の調整を心がけましょう。これらを行うことで、薬を使わずに良い状態を維持できる可能性があります。
Q.乳児湿疹ができやすい場所はありますか
A.顔、頭部、背中が特に湿疹ができやすいです。顔は皮脂分泌が盛んな部位の一つで、主にほっぺたなどで新生児ニキビとして知られる、赤いプツプツがしやすく見られます。頭部も皮脂分泌が活発な箇所で、髪の生え際や眉毛などに脂漏性湿疹として表れる黄色いかさぶたのような症状が頻繁に見られます。背中はあせもができやすい部位で、他にも、首回り、腕、ひじの内側、そしてオムツの中など、蒸れやすい箇所も湿疹の発生に注意が必要です。
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Q.いつ頃までみられますか?
A.個人差はありますが、生後2週間ごろから見られ、1歳頃には落ち着く赤ちゃんが多いです。特に、生後2~3ヶ月ごろは皮脂の分泌が多くなる時期なので乳児湿疹ができやすくなります。その後の湿疹は、主に乾燥によるものが原因で、肌の成長につれ自然に治っていくことが多いです。
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Q.食物アレルギーはどのように関連していますか?
A.アトピー性皮膚炎の症状が見られる乳児は、食物アレルギーを合併している場合が多いとされています。このような結果から、以前は食物アレルギーがあるため、アトピー性皮膚炎などの症状を発症しているとされていましたが、近年ではアトピー性皮膚炎や湿疹などで肌のバリア機能が低下することによって、食物アレルギーを引き起こすということが研究によってわかりました。
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Q.アトピー性皮膚炎との違いを教えてください。
A.アトピー性皮膚炎は乳児湿疹と別の疾患ではなく、乳児湿疹のひとつです。肘窩や膝窩などの屈曲部、頬部、四肢外側などに左右対称性に痒みのある皮疹ができて、長引けばアトピー性皮膚炎 の可能性が高くなります。アトピー性皮膚炎は痒みのある皮疹が体の両側にできて、 悪くなったり良くなったり慢性的な経過をたどる疾患です。慢性的な経過とは、乳児では2か月以上(その他では6か月以上)継続している状態と定義されています。
Q.注意点があれば教えてください。
A.乳児湿疹は生後2週間ごろから起こりうるものですが、いつまで続くのかは赤ちゃんによって様々です。生後2-3か月頃までは皮脂が多く分泌されることによる湿疹、その後は乾燥による湿疹、と様子を変えて長く続くこともあります。多くの赤ちゃんは正しいスキンケアを続けることで、皮膚バリアも備わってきて1歳ころには自然と落ち着いてくることが多いです。
しかし、なかなか湿疹が治らない、かゆみ・赤みが出てしまっている、という場合は病院を受診しましょう。特に、かいてしまう、膿んでしまっている、発熱している場合は早めの受診をおすすめします。炎症の状態により塗り薬などが処方されることがあります。食物アレルギーが疑われる場合も自己判断で食事制限を行うことはリスクがありますので、必ず医師の診断を受けましょう。
参考: