公開日 2024/12/27
【医師解説】溢乳とは?赤ちゃんの溢乳の原因と防ぐための対策について
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武田 賢大 先生
赤ちゃんの授乳後に、飲んだミルクが口から少量溢れ出てくる現象を溢乳(いつにゅう)と言います。溢乳は新生児期によく見られる現象ですが、吐乳との違いを理解することが大切です。本記事では、溢乳の原因や影響、防ぐための対策、そして吐乳との違いや吐乳した時の注意点、対処法について詳しく解説します。
併せて、適切な授乳姿勢や授乳量の調整、授乳後のげっぷと直立姿勢の習慣づけ、哺乳瓶の選び方など、溢乳を防ぐためのポイントなども併せてわかりやすく説明します。
赤ちゃんの溢乳とは?
溢乳とは、授乳後に赤ちゃんの口から飲んだミルクがわずかにこぼれ出る現象です。これは決して珍しいことではなく、生まれて間もない赤ちゃんにはよく見られる現象です。赤ちゃんの生理的な現象なので、基本的には溢乳に対する対応は不要です。
赤ちゃんの溢乳が起きる理由とそのメカニズムとは?
溢乳がおこる一番の背景には、赤ちゃんの胃や食道がまだ発達の途中にあることが関係しています。生後まもない赤ちゃんは、胃と食道をつなぐ筋肉(下部食道括約筋)が未成熟で、飲んだミルクをしっかり胃の中に留めておく力が十分ではありません。その結果、重力や胃内の圧力変化、姿勢の変化などのちょっとしたきっかけで、飲んだ直後のミルクが口元へ戻りやすくなってしまうのです。
さらに、赤ちゃんが勢いよくミルクを飲む際に空気を多めに吸い込んでしまった場合、げっぷとして空気を吐き出す時に、胃の中で浮いたミルクも一緒に押し戻され、口から溢れることがあります。ほとんどの場合は、1~2スプーンほどの少量で、赤ちゃん自身が苦しがったりするわけではなく、あくまで「こぼれ出る」程度のものが溢乳です。
赤ちゃんの吐き戻しはいつまで続く?原因や対処法対処法について
溢乳と吐乳を見極めるポイントは?
溢乳と似たような現象として「吐乳」がありますが、両者は明確に異なります。溢乳はあくまで少量が口元からこぼれる程度ですが、吐乳は噴水のような勢いでミルクが遠くまで飛び出すような状態を指します。溢乳は、赤ちゃんの生活や発育に大きな問題はありません。一方、吐乳は、哺乳手順や量の問題や、場合によっては胃腸の異常や感染などの病気が隠れている可能性があるため注意が必要です。
溢乳はさらっとしたミルクが少し戻る程度で、色やにおいもほとんど授乳直後のミルクそのものに近いことが多いですが、吐乳は噴き出す勢いがあり、嘔吐物の色調が経過時間や原因によって黄色や緑色に変化する場合もあります。このように、戻る量や様子、赤ちゃんの様子によって溢乳と吐乳は区別できます。
溢乳はいつまで続く?成長とともに改善する時期の目安
新生児期から生後数ヶ月の時期は消化器や筋肉がまだ完成されていないため、どうしても飲んだミルクが逆流しやすくなります。しかし、赤ちゃんが成長し、下部食道括約筋などの構造がしっかりしてくると、自然に溢乳は減少していくのが一般的です。生後3~4ヶ月を過ぎると、全体的に溢乳の頻度は減り、1歳前後にはほとんど見られなくなるケースが多いです。
このような正常な発達過程での溢乳は、特に医療的な処置が必要なわけではありません。保護者の方は、赤ちゃんが元気で体重が増え、機嫌が良いなら、あまり神経質になる必要はないでしょう。成長とともに赤ちゃんの身体が整うにつれ、溢乳は自然と落ち着いていくことが多いです。
溢乳の原因とは?
続いては、溢乳を引き起こす主な原因について説明します。特に授乳量や飲み方、授乳後の姿勢がどのように溢乳へ影響するのか、また溢乳が続く場合に考えられるリスク、そして万が一体重増加に影響が出た場合の対処法をお伝えします。
授乳量や飲み方に注意!赤ちゃんに無理なくミルクをあげる方法
赤ちゃんにたくさん飲ませてあげたい気持ちは自然なことですが、過剰な授乳量は胃に負担をかけてしまい、ミルクが戻りやすくなります。また、赤ちゃんが勢いよくミルクを飲むことで、必要以上に空気を取り込むことも溢乳の原因です。胃に溜まった空気が抜ける際、同時にミルクも押し戻されやすくなるため、授乳中の赤ちゃんのペースを見極め、無理に飲ませ過ぎないようにしましょう。母乳でもミルクでも、赤ちゃんには飲み方に個性があります。ごく短時間で一気に飲もうとする子もいれば、ゆっくり休み休み飲む子もいます。早飲み傾向のある赤ちゃんは、より空気を吸い込みやすく、溢乳が増える場合があるため、授乳時はできるだけ落ち着いた雰囲気を作り、赤ちゃんが慌てず飲めるように工夫してみてください。
栄養不足や肺炎につながることも?溢乳が多いときのリスクとは
溢乳は赤ちゃんにとって大きな害はないですが、頻度が極端に多く、毎回の授乳量のほとんどが戻ってしまうような状況では、溢乳ではなく何らかの原因による吐乳である可能性があります。必要な栄養がきちんと摂れず、体重増加が得られない場合には小児科を受診しましょう。また、溢乳の頻度が多い場合には、誤嚥(ごえん)(気管にミルクが入ること)がおこると、肺炎を引き起こすリスクもゼロではありません。もし溢乳の際にむせ込んだり、咳き込んだり、呼吸が苦しそうな様子があれば、誤嚥を起こしている可能性があります。こういった兆候がしばしば見られる場合は、小児科の受診を検討してください。特にチアノーゼ(唇や皮膚が紫色になること)が見られた場合は早急な対応が必要です。
溢乳が原因で体重が増えないときはどうする?
ごく軽度の溢乳なら心配はいりませんが、溢乳のように見えても回数が多くが原因で十分な栄養が取れず、体重の増加が遅れているようであれば、それは溢乳とは言えず適切な対策が求められます。お家で試すことができるのは、授乳方法や授乳量を見直すことです。赤ちゃんが自分のペースで飲めているか、哺乳瓶の乳首のサイズは適切か、また授乳後すぐに平らに寝かせていないかなど、環境ややり方を再点検しましょう。それでも改善が見られない場合は、かかりつけの小児科医に相談することをおすすめします。必要に応じて、アレルギーや特定の病状の有無を確認したり、ミルクの種類や形態を変えたりする処置が考えられます。専門家のアドバイスを受け、赤ちゃんの健康的な発育をサポートしてください。
赤ちゃんの溢乳を減らすための5つの工夫
![哺乳瓶](https://images.microcms-assets.io/assets/2d0fb9d7ff2a4113b9afa2640e2812ea/270b1627f96e4b5cb9e127172b6726b1/regurgitation-of-milk-3.webp)
次に、溢乳の頻度や量を減らすための具体的な工夫をご紹介します。授乳姿勢や授乳量のコントロール、授乳後のげっぷのさせ方、赤ちゃんを正しい姿勢で保つ習慣づけ、哺乳瓶や乳首選びのポイントなど、日常生活で実行しやすい方法を丁寧に解説します。
赤ちゃんにとって飲みやすい角度とは?授乳姿勢のポイント
溢乳対策の基本は、まず赤ちゃんが飲みやすく、ミルクが胃にスムーズに落ち着く姿勢を保つことです。横に寝かせたままミルクを飲ませると空気を飲み込みやすくなり、逆流しやすくなります。理想的なのは、赤ちゃんを少し立て気味に抱っこして授乳することです。また、赤ちゃんが一度に飲む量を適正に保つことも重要です。満腹を超えて飲ませることは避け、赤ちゃんの反応を見ながら、ゆったりしたペースで進めましょう。
もし、母乳が出過ぎることで赤ちゃんが急いで飲み、空気もたくさん取り込んでいる場合は、授乳前に母乳を少し搾り出して、勢いをやわらげる方法もあります。また、ミルクの場合は、乳首の穴の大きさを月齢に合わせ、赤ちゃんが苦しまず、かつ早飲みし過ぎない程度の流速に整えてください。
授乳後のげっぷのやり方と直立姿勢を保つメリット
授乳が終わった後は、赤ちゃんをすぐにベッドに寝かせず、軽く抱き上げて背中をさすることでげっぷを促しましょう。げっぷによって胃の中の空気を外へ追い出すと、ミルクが逆流しにくくなります。また、授乳後しばらくの間(少なくとも10~20分ほど)は、赤ちゃんを直立気味の姿勢で抱っこ(縦抱き)する習慣をつけてください。この直立姿勢を保つことで、重力を利用し、ミルクが胃の中へ安定して留まります。結果として、余分な溢乳が起こりにくくなります。このような習慣は最初は手間に感じるかもしれませんが、赤ちゃんの溢乳を予防し、健康な消化プロセスをサポートするうえで有効です。
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溢乳が多いときの注意点とむせたときの対応方法
溢乳そのものは軽微なものが多いですが、万が一、溢れたミルクが気道に入りかけて赤ちゃんがむせる場合は、気管や肺への影響に注意しましょう。もし赤ちゃんがむせたら、顔を横に向けて、口や鼻付近に残ったミルクをやさしく拭き取ってあげてください。頻繁なむせや苦しそうな呼吸が続くようであれば、医師に相談しましょう。誤嚥が習慣的に起こっている可能性があり、誤嚥性肺炎などのリスクにつながるかもしれません。そうしたリスクを避けるために、普段から授乳姿勢やげっぷの習慣づけをしっかり行い、万一の際には素早く対処しましょう。
哺乳瓶選びで変わる?赤ちゃんに合う乳首・哺乳瓶の特徴
哺乳瓶を選ぶ際は、乳首の形状や柔らかさ、穴の大きさをよく確かめましょう。赤ちゃんによって好みや飲みやすさが異なるため、最初に選んだ哺乳瓶がうまく合わなければ、別の種類を試してみるのもよいでしょう。穴が小さすぎれば時間がかかりすぎて赤ちゃんが疲れてしまい、大きすぎればミルクがドバッと出てしまい、飲み込み時に空気も入ってしまいます。赤ちゃんが心地よく、安定したペースで飲める乳首・哺乳瓶を使うことで、溢乳の発生を減らすことにつながります。また、使用後は毎回丁寧に洗浄・消毒し、清潔な状態を保つことで、赤ちゃんの胃腸に負担をかけない環境を整えてあげてください。
溢乳と吐乳の違いは?病院受診の目安と対応方法
![病院受診について](https://images.microcms-assets.io/assets/2d0fb9d7ff2a4113b9afa2640e2812ea/ef7aa349cc474653bb934df447a7b620/regurgitation-of-milk-2.webp)
最後に、「溢乳」と「吐乳」を明確に区別し、どのような点に気をつければよいかをお伝えします。特に吐乳の特徴、原因、その際の緊急性を判定する基準、そして適切な対処法や受診のタイミングについて詳しく説明します。
吐乳の特徴と溢乳との見分け方
溢乳はあくまで「こぼれる」程度であり、量や勢いはそれほどありません。一方、吐乳は「勢いよく噴き出す」ことが大きな違いです。吐乳の原因には、哺乳方法の問題や消化管疾患が隠れていることがあり、体重減少などの症状が見られる場合があります。吐乳の場合、ミルクが1メートル以上飛ぶこともあり、その量も溢乳とは比較にならないほど多いのが特徴です。
また、吐乳は嘔吐物の色が時間経過や原因によって変化します。授乳後15~30分であればミルク色に近いことが多いものの、30分以上経過してから嘔吐すると、胃酸や胆汁を含み、黄色っぽい液体になることもあります。こうした特徴を踏まえ、単に溢れた程度なのか、それとも噴射的で色変化がある吐乳なのかを見分けることが重要です。
病院を受診するタイミングとポイント
吐乳にはさまざまな原因が考えられます。例えば、肥厚性幽門狭窄症のような先天的な疾患や、感染症、腸重積などの消化管トラブルが背景にあることも少なくありません。こうした場合、赤ちゃんは嘔吐以外にも、持続的な不機嫌、顔色不良、腹部の張りや痛みを示すことがあります。もし吐乳が頻繁に起きたり長引いたりして、赤ちゃんの様子がおかしい場合は受診が必要です。特に、噴射状の吐乳が何度も起こる、嘔吐物に黄緑色(胆汁)や血液が混ざる、赤ちゃんが明らかに苦しそうで泣き止まない、発熱や脱水兆候がある、呼吸が荒い、首が硬直するなどの症状が見られたら、すぐに小児科あるいは専門の医療機関に相談してください。
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吐乳時に気をつけたい!応急処置と赤ちゃんを落ち着かせる方法
吐乳が起こった場合、まずは赤ちゃんの呼吸を確保し、むせや窒息が起きないよう顔を横に向け、口元のミルクを取り除きます。その後、赤ちゃんを落ち着かせ、安静な状態で観察しましょう。嘔吐が一度きりで、赤ちゃんが落ち着いて再び元気になっていれば、すぐに病院へ駆け込む必要はない場合もあります。ただし、繰り返しにはなりますが、吐乳が繰り返し起こり、授乳や水分補給が困難な状態、あるいは赤ちゃんの機嫌が著しく悪くなったり、顔色が悪い、ぐったりしているといった変化が見られるようであれば、早めに医療機関を受診しましょう。
赤ちゃんの溢乳は自然なこと!焦らずゆったり向き合おう
溢乳は、赤ちゃんが未発達な胃腸機能ゆえに起こる一般的な現象で、多くの場合、成長とともに自然に改善します。対策としては、適切な授乳姿勢と授乳量の調整、授乳後のげっぷの習慣づけ、直立姿勢の維持、赤ちゃんに合った哺乳瓶や乳首の選び方など、日々のケアで溢乳を減らすことが可能です。一方、吐乳は噴射的な嘔吐が特徴で、原因はさまざまです。もし吐乳が続く、量や勢いが明らかに多い、赤ちゃんが不調を訴えるような様子がある場合は、早期に医療機関での診断が必要になります。保護者の方は、溢乳と吐乳の違いを理解し、必要な対処や受診の判断ができるようになっておくと安心です。
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